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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和45年(ワ)396号 判決 1972年1月28日

主文

被告昭和石油株式会社は、原告に対し、別紙第二目録記載の建物を収去し、同第三目録記載の物件を撤去して、同第一目録記載(二)の土地を明け渡し、かつ、昭和四五年一二月一九日から右土地明渡済まで一ケ月金一五円の金員を支払え。

被告三和石油株式会社は、原告に対し、同第二目録記載の建物から退去して、同第一目録記載(二)の土地を明け渡せ。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告昭和石油株式会社は、原告に対し、別紙第二目録記載の建物を収去し、同第三目録記載の物件を撤去して、同第一目録記載(一)の土地を明け渡し、かつ、昭和四五年一二月一九日から右土地明渡済まで一ケ年金七万五、六〇〇円の金員を支払え。被告三和石油株式会社は、原告に対し、同第二目録記載の建物から退去して、同第一目録記載(一)の土地を明け渡せ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、別紙第一目録記載(一)の土地(以下「本件(一)の土地」という。)は、もと、訴外中田軍の所有であつたところ、原告は、昭和四三年一月一日、中田軍から、右土地を含む土地三、三〇五・七八平方米(一、〇〇〇坪)を、期間五ケ年、賃料一ケ月三・三〇平方米(一坪)当り金一三円の約定で、賃借した。

二、ところで、中田軍の子である訴外中田文子、同中田博、同中田信夫は、昭和四三年三月一三日、中田軍から、本件(一)の土地の贈与を受けて、その共有権を取得し、同年三月二五日、その所有権取得登記を経由し、中田軍の右土地についての貸主としての地位を承継したが、中田信夫は、その後昭和四五年六月一三日、その共有持分権を放棄し、同年六月二四日、その旨の登記を経由した。

三、次いで、原告は、昭和四三年一一月初旬、訴外株式会社森石油店(以下「森石油店」という。)に対し、本件(一)の土地を、期間の定めなく、賃料一ケ年金七万五、六〇〇円の約定で、転貸した。

四、森石油店は、昭和四三年一一月初旬、原告の承諾を得て、被告昭和石油株式会社(以下「被告昭和石油」という。)に対し本件(一)の土地を再転貸したところ、同被告は、右土地上に別紙第二目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及び同第三目録記載の物件(以下「本件物件」という。)を所有していた。

五、ところで、森石油店は、昭和四五年一一月二〇日午前一〇時札幌地方裁判所室蘭支部において、破産宣告を受け、同日、訴外吉川忠利(以下「破産管財人」という。)が、その破産管財人に選任された。

六、そこで、原告は、民法第六二一条に基き、破産管財人に対し、昭和四五年一二月九日到達の書面をもつて、本件(一)の土地賃貸借契約の解約の申入をした。

したがつて、その後一年の経過により、原告と森石油店との間の右土地賃貸借契約は終了したものである。

七、被告三和石油株式会社(以下「被告三和石油」という。)は、本件建物を使用して、本件(一)の土地を占有している。

八、よつて、原告は、被告昭和石油に対しては、森石油店との間の本件(一)の土地賃貸借契約の終了に基き、本件建物を収去し本件物件を撤去して、その敷地である本件(一)の土地を明け渡し、かつ、本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年一二月一九日から昭和四六年一二月九日までは一ケ年金七万五、六〇〇円の約定賃料、同年一二月一〇日から右土地明渡済までは一ケ年金七万五、六〇〇円の約定賃料相当の遅延損害金を支払うことを求めると共に、被告三和石油に対しては、本件(一)の土地の所有者中田文子、中田博に代位して、本件建物から退去して、その敷地である右土地を明け渡すことを求めると述べ、再答弁として、被告らの抗弁事実中、

(一)、(二)は否認する。

(三)のうち、契約成立の日時が被告ら主張のとおりであること、中田軍が中田文子、中田博の代理人であることは否認するが、その余の点は認める。本件(一)の土地の所有者は、中田文子、中田博であつて、中田軍ではないから、被告昭和石油と中田軍との間の右土地賃貸借契約は、効力がないものである。

(四)は否認する。

(五)のうち、被告三和石油が被告昭和石油から本件建物を賃借使用して、その敷地である本件(一)の土地を占有していることは認めるが、その余の点は否認する

と述べ、再抗弁として、

(1)  被告らの(一)、(二)の各抗弁について、

仮に原告から森石油店に対する本件(一)の土地賃貸借契約の解約の効果を転借人である被告昭和石油に対抗できないものであるとしても、(イ)原告は、中田軍から、本件(一)の土地を賃借して以来、右土地の造成に寄与して来たものであるのに、同被告は、原告の右土地賃借権を消滅させる目的で、昭和四五年一二月二日、新たに、中田軍から、右土地を賃借する旨の契約を締結した。(ロ)同被告の右行為は、原告の右土地賃借人の地位を故意に剥奪するものであり、賃借人である原告と適法な再転借人である同被告との間の本件賃貸借関係の基礎である信頼関係を破壊するものである。(ハ)そこで、原告は、同被告に対し、本訴(昭和四六年八月一三日の本件口頭弁論期日)において、右背信行為を理由として、原告と森石油店との間の右土地賃貸借契約が解約されたときは、同被告に対する右土地賃貸借関係を解除する旨の意思表示をしたから、同被告は、原告に対し、右土地を明け渡すべき義務がある。

(2)  被告ら(三)の抗弁について、

仮に被告昭和石油が昭和四五年一二月二日、本件(一)の土地の所有者である中田文子、中田博の代理人である中田軍から、右土地に賃借したとしても、右契約は、同被告の代理人である同被告札幌支店長訴外館野東洋雄の欺罔行為により、中田軍がなした意思表示に基き、成立したものであるから、中田軍は、昭和四五年一一月二九日到達の書面をもつて、同被告に対し、右契約応諾の意思表示を取り消した。すなわち、右館野東洋雄は、原告が、真実、本件(一)の土地賃借権を放棄する意思がないのに拘らず、右契約の際、中田軍に対し、原告は倒産したもので、原告と交渉し、原告が右土地賃借権を放棄する旨を約定させたから、同被告が右土地を新たに賃借しても、二重賃貸借は成立しない旨を申し向け、原告が右土地賃借権を放棄する旨を申し欺き、よつて、同人をして、真実、原告が右土地賃借権を放棄するものであると誤信させ、右誤信に基き、右契約を応諾させたのである。したがつて、右契約は、右館野東洋雄の詐欺によるもので、前述のように取り消され、無効に帰しているのである。

(3)  被告らの(三)の抗弁について、

仮に右主張が理由がなく、被告昭和石油が昭和四五年一二月中、中田文子、中田博の代理人である中田軍から、本件(一)の土地を直接賃借したとすれば、同被告は、これにより、森石油店に対する右土地賃借権を放棄したものである。したがつて、同被告と森石油店との間の右土地賃貸借契約は、終了した

と述べ、

立証(省略)

被告ら訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、原告主張の請求原因事実中、

一のうち、本件(一)の土地が、もと、中田軍の所有であつたこと、原告がその主張の日時、中田軍から、本件(一)の土地を含むその主張の土地を賃借したことは認めるが、右賃貸借契約の内容の点は不知。

二、三は不知。

四のうち、森石油店が原告主張の日時、原告の承諾を得て、被告昭和石油に対し、本件(一)の土地のうち、別紙第一目録記載(二)の土地部分(以下「本件(二)の土地」という。)を賃貸し、同被告が右土地上に本件建物及び本件物件を所有していたことは認めるが、その余の点は否認する。

五は認める。

六は不知。

七のうち、被告三和石油が本件建物を使用して、本件(二)の土地を占有していることは認めるが、その余の点は否認する。

二、被告昭和石油は、形式上、森石油店から、本件(二)の土地を転借したが、同会社の実態は、原告及びその妻、弟、母らにより、経営される同族会社であつて、原告の個人企業といえるから、同被告は、実質上、原告から、右土地を転借したと同一視できる。

三、また、原告は、本件(一)の土地について、賃借権を有するにすぎないから、第三者に対して、給付(建物収去土地明渡という)を請求し得る権利を有するものではないから、被告らに対し、右土地の明渡を請求し得るものではない(最高裁判所昭和二九年七月二〇日判決、民集第八巻第七号一四〇八頁参照)

と述べ、抗弁として、

(一)  仮に被告昭和石油が原告の承諾の下に森石油店から、本件(一)の土地を転借したものであるとしても、原告から森石油店に対する右土地賃貸借契約の解約は、形式上は民法第六二一条に基くものであるけれども、同会社が事実上は原告の個人企業であることからして、右解約は、実質上は原告と森石油店との間の合意解除である。しかして、原告は、右土地賃貸借の合意解除の効果を承諾ある転借人である同被告に対抗できないから、同被告と森石油店との間の右土地転貸借関係は、原告と同被告との右土地賃貸借関係に移行したものであり、原告の本訴請求は、失当である。

(二)  仮に右主張が理由がなく、原告と森石油店との間の本件(一)の土地賃貸借契約が原告主張のとおり、解約されたものであるとしても、右契約が合意解除された場合には、その効果を転借人である被告昭和石油に対抗できないこととの均衡上からも、原告が右解除を同被告に対抗できるためには、同被告に対し、賃料債務の履行を催告し、右履行がなされなかつたことを必要とすると解される。しかるに、原告は、同被告に対し、右履行の催告をしないから、原告の本訴請求は、失当である。

(三)  仮に右主張が理由がなく、原告と森石油店との間の本件(一)の土地賃貸借契約が解約されたことにより、森石油店と被告昭和石油との間の右土地転貸借関係も消滅に帰したものであるとしても、同被告は、昭和四五年一二月二日、新たに本件(一)の土地の所有者である中田文子、中田博の代理人である中田軍から、右土地を、給油所用建物及びその付属施設所有の目的で、賃料一ケ月金四、五〇〇円の約定で、賃借したところ、原告が森石油店との間の右土地賃貸借契約を解約したことにより、同被告の中田文子、中田博に対する右土地賃借権には何らの消長を来たさないから、同被告は、原告に対し、右土地を明け渡すべき義務がなく、原告の本訴請求は、失当である。

(四)  仮に右各主張が理由がないとしても、原告は、森石油店から、賃料の支払を受けることが困難であれば、本件(一)の土地の承諾ある転借人であつて、資力にも信用のある被告昭和石油から、賃料の支払を受ければよいのであつて、強いて右土地の明渡を求める利益も必要もない。しかるに、原告は、同被告の右土地転借権を消滅させ、同被告から、右土地の明渡を受ける目的で、原告及びその家族による同族会社であつて、社会経済的には原告と同一体である森石油店に対し、破産宣告の申立をし、破産宣告を得て、これを理由として、同会社との間の右土地賃貸借契約を解約したが、同被告は、右土地を明け渡して、他に移転することになれば、甚大な損害を受けることとなる。したがつて、原告の同被告に対する本訴請求は、信義則に反し、権利の濫用として、許されないものである。

(五)  被告三和石油は、昭和四四年一月一日、被告昭和石油から、本件建物を賃借使用するものであるから、その敷地である本件(二)の土地の占有は、同被告の敷地賃借権の行使に外ならないと述べ、再々答弁として、原告の再抗弁事実中、

(1)は否認する。

(2)は否認する。賃借権は債権であるから、被告昭和石油がすでに転借権を有する本件(二)の土地について、新たに賃借権を取得することは可能であり、これをもつて、同被告の詐欺によるものということはできない。また、同被告側の中田軍に対する言葉のうち、原告が倒産したという言葉は、一般人にとつては、原告の主宰する森石油店が倒産したという言葉との同意義に解されるべきものであり、この点からも、同被告側に欺罔行為があつたということはできない。

(3)は否認する

と述べ、

立証(省略)

別紙

第一物件目録

(一) 北海道勇払郡鵡川町字鵡川五三番四

一、牧場 九九一平方米

(二) 右(一)の土地のうち、別紙図面表示イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地 五七九・五〇平方米

第二物件目録

北海道勇払郡鵡川町字鵡川五三番地四

家屋番号 五三番四

一、鉄筋コンクリートブロツク造陸屋根平家建給油所

床面積 八〇・〇〇平方米

第三物件目録

(一) タツノ式計量機六四―NPS型 (昭和四三年一〇月製三二一八五八号)一基

(二) 同      同型      (同年同月製    三二一八五七号)一基

(三) 同      六四―SSNP型(同年同月製    三二一〇五九号)一基

(四) 一〇キロリツトル地下タンク(ストレート型)             一基

(五) 同            (六・四中仕切型)            一基

(六) 右各地下タンクの付帯設備                      一式

図面

北海道勇払郡鵡川町字鵡川五三番四

一、牧場 九九一平方米

<省略>

イ点は右土地の南東隅の地点

ロ点はイ点から右土地の南側境界線上を西方に三〇・五〇米の地点

ニ点はイ点から右土地の東側境界線上を北方に一九・〇〇米の地点

ハ点はロ点から北方に一九・〇〇米の直線とニ点から西方に三〇・五〇米の直線とが交わる地点

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